Speaks vol.50  <<濃くする>>

時間は有限という当たり前の事実を、私たちは忘れがちです。
時間は無限にあるわけではない。
生まれた瞬間から、死に向かい始めていて、そのタイムリミットは
50年先かもしれないし、1年後かもしれないし、今日かもしれない。

私たちの生活を振り返ると、1日に24時間が割り当てられているうちの、
6~8時間が睡眠に使われ、8時間が労働に費やされ、
3度の食事をとって、お風呂に入り……という計算をした場合、
余暇として自由に使える時間というのは、本当に限られます。

私たちは間違いなく、限りある時間の中で生きている。
このことを踏まえて充実した人生を送るには、どうすればよいでしょうか?
答えは、単位時間内に費やす内容の濃度を、「濃くする」しかありません。

テニスの練習をするときにも、
ダラダラと1時間かけてやるのではなく、5分でいいからマックスで取り組む。
そのような姿勢でいると、テニスはもちろん、人生が変わるはずです。

たとえばラグビーの社会人チームというのは、
セミプロだけど、アマチュアの学生みたいに練習ばかりしていられません。
仕事もあり、時間は限られている。
そんな彼らがよくいうのは、「練習の仕方が変わった」「濃さが変わった」ということ。
濃く取り組むことで、効率が上がり、いたずらに時間をかけるよりも
より効果的な練習ができるようになったといいます。

ところで「濃くする」といった場合、では一体何から始めればよいでしょうか?
それは、「おもしろいからやる」のではなく、
「やるからおもしろい」という思考に切り替えること。

何事も、「大変そうだ」「面倒そうだ」「シンドそう」と思うよりも前に、まずやってみる。
つまり感情よりも行動が優先されればよいわけです。
そうしないと、「やる気になればいつでもできる」という誤った思考法をしてしまう。

なぜそれが間違いなのかというと、それは「時間は有限」だからです。
冒頭でも言ったとおり、1日に費やせる自由時間は本当に短く、
「やる気になればいつでもできる」は「一生やらない」とほぼ同じ。
だから「調子がいいからやる」「悪いからやらない」のではなく、
「悪いときもやっていれば、調子は上向く」と考えるのが正解なのです。

行動することで、単位時間内に費やせる密度は確実に濃くなります。
これが習慣化されれば、テニス以外のさまざまなシーンで、
よい効果が期待できるのではないでしょうか。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広