Speaks vol.75  <<妄想をストップする>>

前回は、東京オープンの試合を振り返りながら、

「逆らわない」ことの有効性についてご説明しました。

ところで人はなぜ、こうも逆らいたいのが習性なのでしょうか?
その原因の一つが、妄想です。
つまり、物事に対する誤解から、自分の思い込みによってどんどん悪い方へと
想像を膨らませてしまう心の悪習癖。

例えばテニスの試合で0-3までリードされると、
「自分はもう、勝てないかも」と思い込む妄想を抱きがち。
「相手は調子づくに違いない」
「そうなると、自分にはもう打つ手がない」
こんなふうに、起こってもいない未来について悪い方へ考えてしまうと、
人は逆らおうとする傾向が強くなります。

「とにかく、速い1stサービスを打つぞ!」
「しょうがないから、今までやったことのないショットを試してやろう!」
そんなふうにして、あらがおうとしがち。

ただ、冷静さを失った強引な反撃が、うまくいくはずもありません。
こんな時には状況に逆らわず、平常心を保って事実をきちんと確認することが大切です。
つまりここでいう事実とは、「0-3」というスコア。
相手にしてみれば、「まだまだ1ブレークだ」という安心できない心境かもしれません。
この事実をきちんと受け入れるために、まずは「逆らわない」姿勢が大切になります。

妄想が暴走すると、とても危険。
「メールの返信がないのは、嫌われているから?」
「窓際の席って、もしかしてリストラ?」
「彼女が他の男と楽しげにしゃべってる。もしかしたら!?」
……妄想が暴走すると、メンタリティは暴れまくり、
自己をコントロールすることなどできなくなります(結果、パフォーマンスは落ちます)。

そうならないために、事実関係をきちんと確認することが大切です。
そのために有効なのは何か?
そう、「逆らわない」でした。
ひとまず事実を受け入れることで、平常心を保つ。
そこから自分が今できること、やるべきことに打ち込むことで、
感情に流されることなくベストパフォーマンスを引き出せるようになります。

物事がうまくいかなくなると、
人は逆らおうとすることで打開策を見つけようとするところがあるけれど、
それは必ずしも得策ではない。
現状に逆らわないという選択こそ、一見すると地味で発展性がないように思えますが、
結果的にパフォーマンスを上げたり、結果を出したりすることにつながりやすいのです。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広