Speaks vol.230
  <<長年の謎だった「デュアルタスク問題」>>

ビジネスシーンでは、
「シングルタスク」「マルチタスク」という用語が使われますね。

やるべきタスクを遂行するという点では、
テニスもまったく同じです。

「シングルタスク」は、やるべき1つに対象を絞り込む。

「マルチタスク」は、同時に2つ以上の対象を処理する。

結論から言うとテニスのプレーは、「マルチタスク」です。

走りながら、ボールを見る。

ボールを見ながら、スイングする。

一般的には2つ以上のタスクを同時並行処理するのは難しいとされ、
対象を2つに絞った「何々しながら何々する」場合を、
「デュアルタスク」とも呼ばれます。

ここから具体例に入ります。

僕がコーチとしてテニスを指導するにあたって、
長年悩んできた問題があります。

ダブルスのポジションを説明するときに、
「打ちながら次のポジションを想定してそこへ移動する」と生徒さんへ伝えるのだけれど、
打ったままその場に居続けるプレーヤーが少なくないのです。

これでは対戦相手からの返球に備えられず、
攻守が上手く機能しません。

ポジションを移動する必要性や動き方について、
皆さん頭では理解するのだけれど、
実際にプレーしてみると体がついていかないようなのです。

先述したとおり長年コーチとして向き合ってきた問題なのですが、
これこそ今回のスピークスで俎上に載せている、
「デュアルタスク問題」が関わっていそうなのです。

なぜ頭では理解できているのに、
実際のプレーに反映されないのか?

できるようになるためには、
言語による理解ではなくて、
脳に負荷をかけて鍛える「デュアルタスク」のトレーニングが必要。

たとえばイスに腰掛けた姿勢で、
右手のこぶしで右ヒザをトントンたたきながら、
左手のひらで左ヒザをスリスリさすります。

「デュアルタスク」のトレーニングに慣れてない始めのうちは、
両方の手が同じ動きになったりしがちです。

あるいは1人じゃんけん。

左右の手で右手が勝つように、
左手と同時にグーチョキパーを出し合うトレーニングです。

これも「デュアルタスク」処理に慣れてないうちは、
「あれ?」となって、左が勝ったり、
左右あいこになったりするケースがあったりもします。

左右の手(指)をバラバラに動かすピアノだって、
最初はだれしもできません。

「デュアルタスク」は、頭で理解するだけではなく、
体を使って練習しないとできないようなのです。

それを最初から素早くやろうとするのが、無理筋というもの。

なので初めのうちは、動作をゆっくり行います。

そしてやってるうちに、ヒザトントン・スリスリも、
1人じゃんけんも、ピアノも、ダブルスのポジショニングも、
やがて慣れて、できるようになってくるのがトレーニングの賜物です。

脳が鍛えられて能力が開花するのです。

つまり、先天的な上手い・下手ではありません。

トレーニングをしていない人は、まだできないだけ。

トレーニングをした人は、できるようになるだけ。

また「できる人は上手い・できない人は下手」などと決めつけて、
情報を聞かずに知らないままでいると、できるようになりません。

前回のスピークスでもお伝えした、まず「聞く」のでしたね。

未知の情報ほど聞くと学びがあるのです。

先述したテニスのポジションも、知らなければできません。

連日メディアを賑わせているメジャーリーガーの大谷翔平が、
いくら一流のアスリートだとしても、
突然ダブルスのメンバーに入れられたら、どうなるでしょうか?

並行陣や雁行陣などのフォーメーションについて知らなければ、
ボールを打つことはできたとしても、
どこへ移動すればいいのか分からず、
あたかも「下手」に映る見え方になるでしょう。

「デュアルタスク」のトレーニング経験が、
まだ十分ではないテニスプレーヤーと同じように、
打ち終わったあともその場に居続けるかもしれません。

一方野球では、相手バッターの打球がたとえば1、2塁間に飛ぶと、
キャッチャーは1塁選手の後方へポジションを取るために動きます。

それは打球方向を確認しながら、
野手の送球が逸れた場合に備えて、
1塁へカバーに入るバックアップの「デュアルタスク」になっていて、
知らなければどこへ動けばいいのか分からないはずです。

野球の守備についてまだよく知らない初心者キャッチャーなら、
恐らくホームベース後方の定位置に居続けるでしょう。

皆さんは今、差し当たって「デュアルタスク」について知りました。

打ったらその場に居続けて次のポジションに移れないのは、
こういう理由に基づいていたようです。

次回に続きます。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広

さあ、このSpeaksを読んだらさっそく練習しましょう!!レッスンへGO!!
休日レッスンお申し込みページ
平日レッスンお申し込みページ
ナイターレッスンお申し込みページ
早朝レッスンお申し込みページ