Speaks vol.74  <<逆らわない>>

今年の東京オープン(ベテランの部40歳以上男子シングルス)は、ベスト4でした。
個人的には準備不足で、今までの対戦から
ドロー的にも厳しい顔ぶれであることはわかっていました。

そんな状況で今回トライしてみて、
奏功したある気づきをシェアしたいと思います。

それは、「逆らわない」ということ。

強い相手に対して「嫌だな」とか「どうにかしてやろう!」とか、気負わない。
自分から抵抗するという行為については、
プレーとメンタルの両面において、封印してみたのです。

初戦の相手は、粘り強いことで有名なプレーヤーでした。
案の定、緩いボールで粘られて、ゲームカウントは0-2。
これまでなら「緩いボールなら自分から攻撃しなければ!」と考えるところですが、
ここはその状況を受け入れて、「逆らわない」ことにしたのです。
すると、そこから12ゲームを連取して、6-2、6-0で勝てました。

「攻撃しなければ!」というのは、相手への抵抗であり、逆らう行為。
だけどそれを実現するには、いいポジションに入り、いい打点で打つ、
高いレベルのプレーが求められるわけですが、それで結果が出なければナンセンス。
高いレベルのことをやろうとすると、プレッシャーも高まります。

むしろ簡単なことでいいから、その状況に身を任せ、あらがうことなくプレーしてみる。
これなら、平常心を保てます。
すると、「得意なバックなら攻撃できるかも」
「これならフォアもいけるんじゃないか!」と、
自分が今できることを冷静に見通すことができ、
結果、「逆らわない」をきっかけに、逆らわずして勝利できたのです。

頑張っても、どんなに頑張れと励まされても、
結果が出ないということはよくあります。
そんな時、人は大抵逆らっています。
状況によっては、逆らわないのも一つの手。
そうして平常心を保ちながら、自分のできることをしてみるのです。

「逆らわない」とは、換言すれば「我慢」ですが、
我慢というとどこか受け身で耐えることの圧迫感があります。
だけど「逆らわない」というと、受け流す自分の方に主導権があってストレスがない、
というニュアンスの違いを感じ取っていただけるでしょうか?

逆らおうとすると、どんなにささやかな抵抗も、
自分の感情を波立たせてしまいます。
精神的にも、肉体的にも、疲れることが多くなる。
人は本当に、些細なことでも日々、逆らい合っています。 これをなくしてみましょう、という提案。
きっと、好ましい結果が得られると思います。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広