Speaks vol.91
  <<メンタルコントロールは、ロジックとサイコロジカルを駆使!>>

前回は、怒る、キレるということに関して、
練習効果が下がるし、
人からの評価も落とすので、
やめたほうがいいという内容をお伝えしました。

「そうか、怒らないほうがいいんだ」ということを、
頭では理解してもらえたのではないかと思います。

だけど、こういうロジックについて理解できるのは、あなたが今、
冷静でいるときだから受け入れられたとみるべきです。
もちろん、ロジックを理解しておくことは、
キレそうになったときに制御を効かせる手立てとして有効。
だけど、キレてしまっている渦中にいる人にとっては、もう受け入れられません。

キレている人に、「練習の効果が下がるよ」
「人からの評価も落ちるよ」とさとしても、間違いなく焼け石に水です(笑)
こんなときはロジックではなく、心に働きかけるサイコロジカルな対応が良いよ
うです。

アメリカにテニス修行へ行っていた若かりしころ、
自分はミスしてキレそうになるたび、
「もう、お手上げ!」みたいなポーズをよく取っていました。
これが、自分にとってのキレるアピールだったのです。

このときコーチに、「そんなポーズはやめろよ。なぜなら…」と
ロジックでさとされたとしたら、きっと聞く耳持たなかったと思います。

だけどそのコーチは、
「そのポーズは、ジャパンで流行っているのかい?」と、皮肉まじりのジョーク
を言ってきた。
さらに「お前が上手くできることは(そんなことをしなくても)わかっている
よ」と言われて、
自分は以来、「お手上げポーズ」をやらなくなりました。

何かを頭で理解したわけではないけれど、
心(サイコロジカル)が納得したのです。

こういうことは、人間関係にも言えることです。
例えば会議で何時間もチームワークの大切さについて力説するよりも、
一度みんなでパーッと飲みに行ったほうが、
よほど結束力は強まるようなもの。

刑事ドラマでは、犯人に向かって自白させようと
「こんな悪いことをしたら、こんな刑罰があるぞ!」と
ロジックで説き伏せようとするのは新米刑事です。

だけどベテランはまずカツ丼を用意し、
「田舎の母ちゃん、元気かい?」と、
サイコロジカルな琴線に触れます(笑)

それで、頭で何かを理解したわけではないけれど、
実際に犯人のメンタルが変わる。
結果的に、OKなわけです。

メンタルコントロールが苦手な人をさとすとき、
あるいは自分がメンタルコントロールが上手ではないと自覚するならば、
「理屈じゃない」という方向に振ってみてもよいかもしれません。
根拠なんてなくても、「お前はできる!」「自分はやれる!」で、
できたりやれたりすることも多いものです。

もちろん、前回お話したように、感情をコントロールするロジックを知っておく
ことも大切。
だけど、サイコロジカルなアプローチもできるようになると、心は安らぎます。
家庭では、息子に対して父親が論理的に正しいことを説教する一方、
母親が「そうはいっても、お腹すいた?」とサイコロジカル的にフォローするイ
メージです。

メンタルコントロールは、ロジックとサイコロジカルの
両方を駆使することで、伸ばすことができるスキルなのです!

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広