Speaks vol.90 <<なぜ、怒るのか?>>

人はなぜ、怒るのでしょうか?
例えばテニスの練習で、ミスをしたとします。
このとき、「クソーッ」といって怒りをあらわにする人がいます。
あるいは、口に出さないまでも、内心はらわたが煮えくり返っている人も。

だけど、冷静に考えてみてください。
上達するために練習しているのだから、
その過程は、うまくなるゴールに進んでいる最中。
なのに、ミスするたびに怒っていては、
歩みを止めて立ち止まるようなもの。

ある意味、うまくなるためにミスしているのです。
何も、下手になるためにミスしているのではありません。
このことを理解するならば、ミスして怒る必要性など、
実はどこにもないはずなのです。

例えばストロークでクロスに打てない人がいます。
狙い方をアドバイスしてその通りに打ったら、
コート内には収まらなかったけれど、クロスには飛んで行きました!

でも、本人は納得していない様子。
いわく、「だって、コートに入っていないから」

いえ、クロスに打てなかった人が、
クロスに打てるようになっただけで、方向性は正されました。
あとは、コートに収める。
次に、弾道をフワッとした山なりから、スピンをかけてストンと落ちるようにする。
そしてスピードを速めていくといったように、ステップを踏んでいけばよいのです。

なのにいきなり、
「スピードのあるショートクロスをトップスピンで落とし込む!」という最終形
を目指すから、
「納得できない→怒る→上達が止まる」という悪循環に陥るのです。

怒りの感情を持ったままでは、いくら練習しても、
脳は運動を記憶しにくい状態だから効率的ではありません。
子どもに「勉強しろ!」と注意して机に向かわせたとしても、
その子がふてくされては、何時間費やしても内容が一向に頭に入らないのと同じ
です。

テニスで言えば、同じ10球を打つとしても、
怒りながら10球打つのと、集中して10球打つのとでは、
その効果はまるで違ってきます。

そもそも、怒っても何ひとついいことなどありません。
見方を変えれば、「自分はもっとうまく打てるのに」という言い訳が、
キレるポーズなわけですが、
言い訳して有利に働くことなど何ひとつありませんよね。
大抵は、悪い方向に作用します。

「自分はもっとうまく打てる!」と認めてもらいたいアピールかもしれないけれど、
逆に評価を落として認められないのが、キレるという行為です。
どんなにミスしても、
グッとこらえられたり、淡々とプレーできたりする人の方が、
周囲から認められると思いませんか?

だから、練習の効率は悪くなるし、
周囲からの評価も落とすので、
キレるというのはやめた方がよいというわけなのです。

ただ、こういうロジックは、
今これを読んでいるあなたの感情が冷静だから、受け入れられる話。
もちろん、ロジックを頭に入れておくことは、
いざキレてしまいそうになる場面で制御を働かせるための
とても有効な手立てとなります。

だけど、ひとたび切れてしまっては、
そんなロジックで制御を効かせようとしても、
暴走はなかなか止められません。
そうなってしまったときは、どうするか。
次回はこの場合の対処について、考えてみたいと思います。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広