Speaks vol.61  <<感情をコントロールする>>

「あなたは、スランプになったことはありますか?」

こう質問すると、大抵は「ある」という答えが返ってきます。
あるいは、「今もずっとスランプだ」「いつもスランプですよ」と。

でもそれってもう、スランプじゃない(笑)
テニスを調子良くできている時も、できていない時も含めて自分。
ベストだけが本来の自分の調子と考えるのは、
少しでも調子を崩すと「スランプだ」といって落ち込み癖がつく温床となります。

春のテニスシーズン、あなたがスランプに陥らないための、
現実的な対処について考えてみましょう。

「なぜ、いい当たりが出ないのか?」
「どうして、しっかり振り切れないのか?」
「ネットミスを繰り返すのは、なぜだ?」

調子が悪い時にはこういう気持ちになりがちですよね。
「気持ち良く打てていた時のあの感覚は、一体どこへ行ったんだ?」と。
こうなった時に、どう対処するかが、あなたの真価が問われる時です。

まず、感情に流されたらアウト。
「もう嫌だ」と落ち込んだり、
「チクショー」と怒ったりしては、調子はますます悪化するばかり。

もちろん人間は感情の生き物ですから、感情的になるのはわかる。
でも、感情はコントロールすることもできるのです。
すなわち、ミスしても「気にしない」と捉えることもできる。

例えばマリナーズのイチローは、1、2打席目が三振や凡打であったとしても、
3打席目にバッターボックスに入った時には、そのことをまったく気にしていないといいます。
だから3打席目は、目の前のボールに集中できるから、打てる。
3打席目の時に、「あの時にミスしなければ」という雑念があっては、ミスを繰り返すのです。

こういうと、「ミスを気にしちゃいけないのはわかるけど、気になる」という人がいます。
まるで他人事のように(笑)

「気になる」のではなく、「気にしない」ように、あなたが仕向けるのです。
でも、「気になるんだよね~」といって場当たり的な気持ちに流されるままに、
「感情をコントロールする」という発想がまったくない人が、実は相当数いるのです。

なぜかというと、「感情をコントロールする」というのは、すごく大切なことだけど、
学校教育では普通、その術は教わらないから。
ゆえに、大人になってからテニスを始めた人は、
感情の揺さぶり合いであるテニスというスポーツをいきなり経験すると、
自分を見失い、感情に流されてしまうのです。

では、感情をコントロールする術のひとつを、具体的に紹介しましょう。
「相違思考で考える」というテクニックがあります。
例えば、ストロークがネットミスしたことを、良し悪しで判断しない。
それは、「ネットしたか・しないか」の違いにすぎないと考える。
すると、感情に振り回されにくくなるのです。

身近な例で言えば、とても急いでいる時に、車が渋滞に巻き込まれたとする。
こんな時に、「最悪だ。イライラする」という人がいますが、
「最悪」という言葉からわかるとおり、良いか悪いかで判断するから、感情的になりやすいのです。

では、その時に全然急いでいなかったとしたら?
車が進まなくても、まあ、どうということはない。「混んでいるなあ」と思うだけです。
つまり、込んでいるかいないかの「相違思考」で考えられたことになります。
同じことを経験しながら、一方では感情に振り回され、一方では感情をコントロールできている。

恐らく学校教育では教わっていないと思いますが、
相違思考はテニスにおいて必須科目。
ぜひ、普段より意識して身につけてみてください。

感情に流されることが少なくなり、スランプも収まってくるに違いありません!

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広