Speaks vol.57  <<達成感に注意>>

脳神経外科医・林成之先生の著書『望みをかなえる脳』を参考に、
運動パフォーマンスの発揮の仕方について、
脳科学的なアプローチからお話したいと思います。

早速質問ですが、あなたはずっと頑張ってきて、
やっとのことで満足いく成績をあげたとき、
体を休めて疲労の回復に努めるタイプですか?
念願の好成績であったならば、達成感もひとしおでしょう。
練習をセーブして、体をリフレッシュさせようとするかもしれません。

しかしこれは、従来型の運動生理学に基づく考え方。
最新の脳科学の見地からすると、
運動パフォーマンスの発揮を考えるなら、
真逆の立場を取るそうです。

すなわち、いい成績を上げた時こそ、休んではいけない。
脳からの伝達が良くなっていて、
体への指令が最高の状態になっている千載一遇のチャンスなのだから、
さらに上を目指してどんどん行くべきだというものです。

例えば初めて1回戦を突破した。
今まで勝ったことのない選手に勝った。
そういう時、私たちは達成感に浸りたくなります。
だけどその達成感が、脳の働きを思いっ切り鈍らせることになる。
安心してしまって、次の試合では簡単に負けてしまうということになりがちなのです。

せっかく脳からの指令が体に、
最高の状態で伝達されている時なのだから、
体が多少疲れていようとも、一気に駆け上がった方がいい。
そのチャンスを、達成感というぬるま湯に浸って逃してしまっては
非常にもったいないというのが、脳科学的なアプローチになります。

上達というのは、ジワジワと坂道を登っていくイメージではない。
調子のいい時に、一気に飛躍します。
だから、ノッている時には、さらに上を目指して畳み掛けるように
頑張ってみると良いのです。

もちろん、「達成感に甘えるな!」などと、
超ストイックになれと言っているわけではありません。
だけど調子のいい時こそ、勝っている時こそ、
さらなる飛躍のチャンスだと捉える考え方を持っておくと良いと思います。

勝っても、安心してしまわない。
「勝って兜の緒を締めよ」です。
今後、もっと飛躍できる可能性があります。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広