Speaks vol.56  <<視野の広さ>>

20年間無敗を誇る伝説の雀士、桜井章一氏いわく、
現代人はパソコンや携帯電話に向かう時間が長いため、
視野が狭い範囲に集中する傾向なのだそうです。
そのために、周辺まで視野を広げて見ることが、できなくなっている。

マージャンというのは、手元の牌だけを凝視していればいいというものではなく、
他の3人の気配や癖を読み取りながら行う視野の広さが必要なのだそうです。

実はこれ、テニスにも非常によく当てはまることで、
ネットの向こう側の相手が、何をしようとしているのか、何を考えているのか、
その雰囲気を読み取れなければ、なかなか勝てません。
しかし、それができていない人が非常に多いのです。
相手がどうこうではなく、自分がどう打つかで、必死なんですね。

前回の「自分がする、相手にさせる」の回でもお話したとおり、
「自分がどう打つか」だけではなく、
「相手にどう打たせるか」まで考えが及ばないと、
なかなか勝利に結びつかないのがテニスというスポーツなのです。

ところで、ランナーズハイという現象をご存知でしょうか。
これは、走っていると脳内モルヒネが分泌されて、気分がハイになる現象。
同じ行為の繰り返しや継続により発現する可能性が高まるそうですが、
視野を絞り込んで自分の世界に入り込むクローズドスキルゆえに、テニスには不向きです。
テニスは、同じボールは2度と来ない、
同じ状況は2度とない、変化に対応するオープンスキル系のスポーツだからです。

ところが、ラリーや球出し練習で同じショットを何球も打ち続けていると、
ランナーズハイのような状態になることがあります。
ボールに集中し、視野を絞り込んで、同じ打ち方の練習を繰り返す。
確かに、決められたパターンで行う打ち方はとてもうまくなるでしょう。
だけどそれでテニスが強くなるかというと、またまったく別なわけです。

テニスは、ボールだけを凝視していても勝てません。
ラリーを長く続けるのが目的のゲームでもなければ、
スイングフォームの美しさを争う競技でもないのです。
戦術や駆け引きを駆使して点を取り合う、人間対人間のバトル。
ゆえに、相手の気配や癖を読み取ることのできる視野の広さを持つことが、
とても大切になるのです。

ちなみに冒頭の桜井章一氏、
周囲の気配や癖を読む必要のないテレビゲームのマージャンだと、
全然勝てないのだとか。「わからない」と言います。

これはテニスも同じですね。
テレビゲームで疑似体験できたからといって、
それが本番で通用するわけでは、全然ない。
やはり自分の体を動かして体験してこそ、わかることがあるのです。

ぜひ、視野を広げる習慣を実践してみてください。
少し意識するだけでも、物の見え方がガラリと変わります!

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広