Speaks vol.55 <<自分がする、相手にさせる>>
テニスや会話など、人と人とが関わり合う場面では、
「自分がする」と「相手にさせる」のバランスが、
とても大切になります。
テニスで言えば、「自分はこう打つ」「ああ打つ」とばかり考えている人は、
なかなか勝てません。
「相手に打たせてみよう」という発想が必要になるのです。
「相手に打たせないようにしよう」
「相手に捕らせないようにしよう」とばかり考える、
つまり自分本位の何がいけないかというと、
結局は自分自身を追い詰めてしまう点。
無理なハードヒット、無茶なコース選択をせざるを得なくなり、
逆にノビノビとプレーできなくなってしまうのです。
また、自分がどう打つかばかりを考えていると、周りが見えなくなる。
実際、相手がどういうプレーをしているのかはお構いなしに、
自分のことだけを気にするプレーヤーは少なくありません。
そういうプレーヤーはどうなるかというと、
自分の意思でプレーするというよりも、
何となく相手とのやり取りに身を任せるような、
主体性のないテニスに陥りやすいのです。
後手後手に回り、いつも打たされているような感覚になる。
なぜなら、自分のことばかり考えていて、
相手のプレーを見ていないために、「予測」が立てられないから。
自分がどう打つかばかりを考えていると、思考に幅がなくなり、
視野も狭くなって、相手のことを見る余裕がなくなります。
そうすると、打たれてからとっさに反応しなければならなくなる。
結果としてボールを打つのではなく、
「打たされている感」がますます強まるのです。
実はこれ、コミュニケーションにおいても同じこと。
自分の言いたいことばかりを頭の中で考えていると、
相手の会話に耳を傾ける余裕がなくなります。
すると、意見を求められると、パニックになったりする。
意見を言うのではなく、「言わされている感」が強まるでしょう。
コミュニケーションも、相手に話させる局面を提供できてこそ、
会話に主体的に働きかけることができるようになります。
また、相手の表情や雰囲気を察して発言を「予測」するから、
受け答えもできるようになるというものです。
自分がどう打つかばかりを考えない。
自分が何をしゃべるかばかりを考えない。
「相手に打たせる」「相手にしゃべらせる」、
このような発想ができるようになると、
ワンランク上に昇ることができます。
解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広