Speaks vol.86  <<テニスの話と勝負の話>>

「試合に勝つ」と一口に言っても、
勝てる人というのは非常に少ないのが実際です。
8人がエントリーする試合に出たら、最終的には7人は負ける。
その試合で勝ち切れる人は、たったの1人しかいないのです。

試合とは、勝ち負けであり、すなわち「勝負」。
だけど負ける人に話を聞いてみると、
どうも「勝負」について語ることが少ないようなのです。

「サービスのスピードを上げないと…」
「バックハンドのスピンを打てるようにしないと…」
「ハイボレーをしっかり叩けないと…」などなど、
「テニスの話」をし出すのです、「勝負の話」ではなく。

ここに、非常に違和感を覚えます。
「勝負の話とは?」
皆さんは、この質問に答えられるでしょうか?
これを語るには、そもそもテニスのルールを知っていなければなりません。

相手よりも2ゲーム差をつけて6ゲームを先取すれば、セットが取れます。
3セットマッチなら、これを2セット取れば勝ち。
ゲームを取るには4ポイントを相手よりも先に取る必要があります。
つまり、ポイントを重ねてゲームを取り、ゲームを重ねてセットを取る。
この作業が相手よりも先に完了したら勝ちとなるのが、テニスのルールです。

ここに、「サービスのスピードは時速何キロ以上を要する」とか、
「バックハンドはスピンを打てないとダメ」という決まりは出てきません。
まず、ポイントを取れればいいのですから、
それは自分が望んでいる形でなくても、ルール的には当然問題ないはずなのです。

だけど、自分の理想形じゃないとダメだと思い込む。
要するに、敗因を「勝負の話」ではなく「テニスの話」にすり替えてしまうから、
なかなか勝つことができないでいるというのが、
多くの人に見受けられる非常によくある傾向なのです。

「勝てない」という人ほど、スピードは速くても、ボールをコートに入れられま
せん。
テニスの総ポイント数は、そのほとんどがお互いのミスで決まるというのに。
ということは、「ミスを減らす」ということができれば、
時速何キロ以上のサービスが打てなくても、圧倒的に勝ちやすくなるということ
が言えます。

速くもないけど、相手コートには入るという、
一見すると練習では「ものすごーく地味なショット」。
だけど、試合ではこれが「ものすごい価値を発揮する」ということを覚えておい
てください。

ビジネスに例えると、経営が悪化したからといって、
大ヒットの一発勝負を狙うのは危険ですよね。
むしろ立て直しには足元の経営を見直す必要があり、
これが、テニスでいう「ミスをなくす」という感覚に近いものだと言えます。
「思い切り打って、サービスエースでポイントを取るぞ!」
これは、大ヒット狙いのギャンブルです(笑)

あなたは、「速いボールを打たないと相手に影響を与えられない」と思って、
頑張っているかもしれません。
だけどそんなプレーを追求するのではなく、
「自分からミスしない」ように頑張ってみてください。

自分からミスしない、またミスしない、またまたミスしない、
このことの積み重ねがとても大きな力になり、
相手に影響力を与えられるようになるのです!

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広