Speaks vol.40  <<不安定に身を置く>>

人はとかく、安定を求めたがる生き物です。
安定したストローク、安定した心、安定した収入……etc.
安定は安心につながり、得られることで安らぎを感じることができたりします。

ところが勝負の世界は常に不安定。
決まったことは何もないし、何でもアリ。
試合という場は安らぎとは真逆で、
不安と緊張の塊。相手も勝つために、ガンガン圧迫をかけてきます。

そんな状況下において、安定を求めようとする矛盾に気づくことが大切。
卓球の、北京五輪代表の女子選手が、
20年間無敗の雀士に会いにいった有名なエピソードによると、
士いわく「不安定に身を置いてみろ」というような教えを授けたそうです。

試合において安定はないのだし、
それを求めようとしたら無理が生じるからどこかで破綻します。

例えば3セットマッチのテニスの試合で、
1stセットを取ったら安定に近づくと考えがちですが、
それは同時に不安定にもアプローチすることになる、ということに気づけるかどうか。
なぜなら1stを取った時点で「これはイケる!」と思うと無欲を保てず、
勝ちを意識し出すからです。

何が言いたいのかというと、試合でうまく立ち居振舞うには、
勝負は常に不安定であり、「そういうものだ」ということを理解して、
渦中に身を投じたら目の前の相手とただファイトすることに
集中することが大切だということです。

完璧なプレーなどあり得ません。
それを求めるからうまくいかなくなるということに気づきましょう。
自分が犯した1本の凡ミスを許せなくなると、そのゲームは破綻するのです。
不安定を恐れないこと。
不安定を恐れるのは、試合そのものを恐れることと同じです。

勝ったか負けたかは結果にすぎません。
結果を求めたがるのは早く安定した状態に落ち着きたいからでしょう。
早くマッチをクローズしたい。安定したい。
でも試合は不安定なのだから、結果を急ぐとそこにはどうしても矛盾が生じます。

「結果よりもプロセスを重んじる」基本的な態度さえ忘れなければ、
もう少しうまく試合をコントロールできるようになると思います。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広