Speaks vol.37  <<実践する>>

大人になると、いろいろな情報や知識を仕入れて、
「なるほど!」と思えるようになることが、たくさん出てきます。
人からよい話を聞いて、あるいはよい本を読んで、
「なるほどなぁ」と理解できるようになる。

ただし、知識を知ることと、それを実践することとは、まるで違います。
知り得た知識を反復して実践することで、
初めていろいろなことが身につき、そしてできるようになるのです。

知っているだけで実践が伴わなければ、
その知識や情報は、ほとんど何の意味も持ちません。

技術向上を目指す、あるいは生活習慣を正す、
ほか、どんなカテゴリーのことであっても、
実践することで初めて変化が表われます。
逆に言えば、すごくたくさん学んだとしても、
実践しなければ、変化はまったくないのです。

実践するにあたっては、「フォーカスする」ことが極めて重要です。
例えばテニスでサーブのスイングを矯正しようとする。
そのときには、体の動きにフォーカスを絞り込む必要があります。
ところがコントロールが散らばると、
フォーカスがフォームではなく、ボールの行方にシフトしてしまう。
そしてフォームは元戻り……。

こんな場合はコントロールのことなどは気にせずに、
体の動きにフォーカスを絞り込まなければ、変化は訪れません。

メンタルタフネスのスキルをアップしようとする局面において、
自分がミスヒットしたあとに「あーぁ」「ダメだー」といってオーバーアクションしてしまう。
これがマイナスのイメージを強化してしまうわけですが、
そこで「絶対に『ダメだ』と言わないようにする」ことにフォーカスしてみましょう。

練習だから、口から漏れてしまうのは仕方ないですが、
それでも言わないように努力する。実践することが大切です。

ミスしたあとに素振りをすると、悪いスイングを強化してしまうということが、
経験的に知られています。
でも、この知識を知っているだけではムダ。
知っているのなら、実際にミスヒットしたあとに、素振りをしないようにしましょう。
知識を実践することでしか、あなたの中に変化を起こすことはできないのですから。

大人になると、実際にはやってみなくても、
ある程度結果の予想ができることは、たくさんあります。
でも、だからやらないというのでは、あなたの技術レベルは向上しないし、
生活習慣も変わりません。

知っていることを実践してみて、どんな変化が起こったのか、あるいは起こらないのか、
そこでどういう感じ方を自分がしたのかを、じっくりとかみ締めてください。

実践してできなかったことについては、
なぜできなかったのか、その疑問に対する考え方にも深みが出ます。

例えば塾で、先生に方程式の説き方を教わったとします。
頭では何となく分かった気になるのですが、実際にやってみると、実は解けない、
という経験をあなたもお持ちでしょう(笑)。
自分でやっていないから、身についていないということです。

やってみてできなかった場合に、その疑問が次の解決策を導くでしょう。
とにかくやってみること。どんなに些細なことでも実践してみること。
変化を起こすための、唯一の手段です。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広