Speaks vol.34  <<受けられれば、打てる>>

前回の記事では、
「まずディフェンスありき」だということを説明しました。

なぜなら、いくらあなたが「強いボールを打ちたい」と考えようとも、
まず相手のボールを受けなければ、打てないという順序があるからです。

この視点をないがしろにして、自分が打つことばかりを考えても、
実戦ではまるで無意味。
コミュニケーションにあてはめると、
まず相手の話を聞ける、理解できることが
会話の前提条件であるという話しでした。

今回は「受けられれば、打てる」というテニスの話。
前回の記事の最後に少し触れましたが、
例えばあなたが、相手が物すごく弾むトップスピンストロークを
余裕で受けられるようになると、
そのころには同時に、あなたは物すごく弾むトップスピンストロークを、
余裕で打てるようになっているということです。

コートの外側に追い出されるアングルショットを受けられるようになると、
あなたも相手をコートの外に追いやるアングルショットを、打てるようになる!

詳しく説明しましょう。

まず、あなたが今まで物すごく弾むトップスピンストロークを打てなかったのは、
その存在をリアルに知らなかったから。
受けたことがないために、話では聞いていたけど
実際のショットがどれくらいのスピードで、どれくらい落下し、
どれくらい弾み上がるのかを知らなかったというのが、
実は打てなかった大きな理由なのです。

知らないショットについて、いくらフォームをあれこれ工夫してみても、
打つボールのイメージが沸かないから、打てるようになるはずもありません。

しかし受けてみると、ショットの雰囲気を体で感じます。
その雰囲気をつかむことが、とても大事。
フィーリングが分かると、そのショットを再現しようとする動きが、
体に必ず現れます。

また、すごく弾むトップスピンを受けられるようになるころには、
あなたのフットワーク、ラケットワーク、ボディワークも
相当高い水準に到達している可能性が、高いと言えます。

正しい打点に入り、不必要な予備動作を排除して
うまく体を使えるから、厳しいボールも受けられる。
弾み上がる変化率の高いトップスピンに対して、
シャープなラケットワークで対応できるのであれば、
自分のそのラケットワークを駆使してトップスピンを打ち返せるはずなのです。

トッププロになることを目指して海外に行くのには、
受ける経験を積むためだとも言い換えられます。

強い選手の強いボールを受けてみて、
体でショットの雰囲気を感じ、対応可能なディフェンス力を養う。
フェデラーのボールに対して、今のタイミングだと間に合わないから、
「もっと早く構えて、もっと早く振り出さないと、受けられない」と気づく。

そうして適応していくうちに、レベルが上がっていくのです。
仮に、あなたがフェデラーの打ってくるボールを
すべて適切に受けられるようになったら、
そのころにはあなたも、フェデラー級のボールを連発できるはず。

自分から打つことばかりを考えるのではなくて、まず受けてみる。
今までのやり方でうまくいかなかったのだとしたら、ぜひ試してみてください。
違った視点からアプローチしてみると、
よい結果が得られることが少なくありません。

【解説】スポーツラーニング・黒岩高徳
【構成】テニスライター・吉田正広