Speaks vol.84  <<練習したことが試合でできないのはなぜ?>>

練習ではテーマを持ってあるショットの打ち方を学んだ。
さて「ゲーム形式です」となったときに実際にプレーしてみると、
練習でやったことが一切飛んでしまって、
もとの自分に逆戻り……。

こういう人が、本当にたくさんいらっしゃいます。
あんなに練習した労力と時間は、一体なんだったのか!?
いくつか思い浮かぶ原因が挙げられますので、検証してみましょう。

まず、「何のための練習」という、ショットを学ぶ目的意識が希薄の場合。
漠然とレッスンをこなしている人は、この症例に陥りがちです。

例えばローボレーの練習をしたとします。
打ち方は分かった。だけど、足元にボールが飛んできても、
ゲームでは練習のような状況設定のお膳立てがないから、
本人にしてみれば、ローボレーを打つことに無自覚。
練習時に目的意識がないと、「何のために」が分からないから、こうなりがちです。

また、練習とゲームでは思考パターンが異なります。
練習では打ち方に、試合ではポイントの取り方に頭を使うので、
「試合になると練習どおりに打てない病」を誘発します。

確かに、試合で打ち方のことを気にしていると、
ポイントが取りにくくなるのは事実。
つまり打ち方は練習時に反復し、
考えなくてもできるように、下意識に落とし込んでおく必要があるのです。

また、せっかく身につけた技術を使うのに、
自らブレーキをかけてしまっている可能性も。
例えばトップスピンをかけてショートクロスに落とそうとするとき、
試合だと振り切れずに、回転をかけ損ねてミスする人がいます。

「なぜ、振り切らないの?」と尋ねると、
「振り切って、入らなくなるのが恐いから」と返ってくる。
この場合、入るか入らないかはあとの話で、振り切ってみることが先。
つまり、結果等の何かプレーとは関係ない別のところに意識が向いてしまって、
技術が使えなくなるという原因が考えられるのです。

どれもこれも根本は、現在の自分を守ろうとするための
防衛反応と言えるかもしれません。
上達はしたいけれど、一方ではどこかで今のままの自分でいたいから、
練習のときにもコーチの話を100%聞けず、
「自分のやり方」をちょっと取っておいている。

自分の思考・行動パターンを変えたくない思いが残っているため、
ゲームという緊張度の増した状況では、
自分のやり方ばかりが全面に出てしまい、
練習したショットが使えないということが起こっていると疑われます。

変わることに対して、何かしらのブレーキをかけてしまっている自分はいませんか?
自分を変えるには、換言すれば、今よりも上達するには、
今の自分を壊さなければなりません。
ブレークスルーは、ブレークするから生じます。

「自分を変えてもよい」と認めた上で、
今回の話を振り返ってみてください。
何のための練習をしているのかの、目的意識がはっきりします。

反復練習にも疑いなく、集中して取り組めるでしょう。
動作の再現性が下意識に、ストンと落ちてくれます。

結果を気にせず、やるべきスイングをしっかりと遂行することもできるはず。
すべては今の自分を変えてよりよくなるため、
そんな姿勢で取り組めば、練習でマスターしたショットが、
試合でも活かされるに違いありません!

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広