Speaks vol.134
  <<変われないのは「センス」がないからではなく「※※」がないから>>

前回のスピークスでは、変われない人の傾向として、
「これは癖だから仕方がない」といってあきらめる人、
「これは自然じゃないからやらない」といって拒む人の、
2タイプを紹介しました。

確かに、癖の問題はあるでしょう。
かつて習っていたコーチに「あーしろ」「こーしろ」と言われて、
ついてしまった癖というのもあると思います。
しかしその情報をもとに自分が繰り返した結果として生じるようになったのが、癖です。

別にそのコーチが、つけたわけではありません。
その情報を自分が採用して、自分が繰り返したから癖がついたのです。

癖は、直すのではなく、新しい癖をつけることで、
新たな自分に変わっていくことができます。
つまり、また意識して繰り返せばいいのです。

ところが、意識した時点でその動作は不自然になるというのが、
「これは自然じゃないからやらない」といって拒む人が変われない原因。

しかし当初は、たとえたどたどしくても、
反復することで動作は速くなるし、
労力をかけなくてもできるようになる学習効果が発生します。
そうやって反復して身につけた動作がナチュラルになるのが、
新しい癖ということです。

つまり、結局は反復した結果なのですね。
そこへたどり着くには、
必ず「アンナチュラルな感じ」を経由しなければなりません。

こういうと、
「私はセンスがないから、反復してもできるようにならない」という人がいます。
しかし実際には、「センス」がないのではなくて、「意識」がないのです。

ラケットを前ではなく外へ振るというスイングが身につかない理由は、
「センス」がないからでしょうか?
いいえ、そのようにする「意識」がないのです。

もちろん、1回の練習だけでできるようになるセンスのある人もいますが、
そういう人は往々にして、繰り返さないので動作が下意識まで落ちません。
一方センスのない不器用な人が意識して繰り返した方が、
結果的によくなるケースは多々あります。

職人は皆が皆、とても器用というわけではないけれど、
繰り返すから「孤高の人」になる例も少なくないのです。

だからといってセンスのある人がダメわけでももちろんない。
今のATPツアーは全員が全員、センスの塊ですが、
さらに努力を重ねたから怪物になったのです。

センスがあるかどうかよりも、
繰り返すプロセスの中に「意識」があるかどうかが大事。
同じ練習を繰り返しても、まったく違った結果になるのです。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広