Speaks vol.121
  <<概念①>>

子どものころはあまりないけれど、経験を重ねていくうちに形作られるのが、概念です。
これが大人になるほど、凝り固まり、その人の中で確信に満ちたものへとなっていきます。
自分が「絶対に正しい」と思い込む、固定された概念ができあがります。

生きていく上でそれが、確かに有用な場合もある。
しかし、テニスの上達に伸び悩んでいるのだとしたら、その概念を、完全には手離さなくてもいいけれど、少し柔らかくしてみることも大切です。

これまでのテニス経験で培われた「こうであろう」という無意識に固定化されている概念は、何も意識しなければ、つねに優先順位としては上位にきます。
何も意識しなければ、今まで通りのスイングしかできないということです。

例えば、「ラケットは前に振らなければ、ボールは相手コートに返らない」という概念が形成されている人にとっては、何も意識しなければ、つねにこのラケットを前に振るスイングをします。当然の話です。

しかし練習で「ラケットを上へ振り上げましょう」というテーマが設定された時に、素直にそれに応じられるかどうかが、ポイントなのです。

「前へ振らないとボールが相手コートへ返らない」という概念が形成されていて、凝り固まっている人にとっては、「上へ振りましょう」といっても、どうしても前へ振ってしまいます。
凝り固まった概念があると、上へ振れないのです。
こうなると、いつまでたってもトップスピンを覚えることができません。

まず、自分には凝り固まった概念があることを知ってください。
自分では気づいていなかったかもしれないけれど、その存在があることに気づくことが、テニスを変える第一歩。
気づかないと、変えようもありません。

そしてテニスを進化させるとは、その概念を柔らかくして、別の形に作り変えていくというプロセスにほかならないのです。

「上に振ったら前に飛ぶわけがない」と、思い込んでいる。
いいじゃないですか、たとえその通りに飛ばなくったって。
どんな結果になるにしても、「とにかくやってみる」という、柔らかな姿勢で試せばいい。

上手くいかなければ、元に戻せばいいだけの話です。
「自分には合わなかった」と分かるだけでも、やってみる価値はあるはずです。

ですからレッスンで、「こうしましょう」というテーマがあった時には、どんな結果になってもいいから、「とにかくやってみる」ことが重要です。
レッスンのアドバイスを受け容れやすくなり、そのぶん、前回お話しした「気づき方」も変わってくると思います。

とはいえ自分にも、テニスコーチとして固定化された概念があり、ジレンマがあったりします(笑)。
そうなる理由や、優先順位の考え方などについて、次回はさらに掘り下げてお伝えできればと思います。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広