Speaks vol.92 <<もがき具合が力になる!>>

錦織圭選手について、あるテレビ番組が特集していました。
彼の強さの秘密は、「メンタル」だと言います。
幾度ものケガから立ち直ることで、メンタルが強化され、
今の活躍につながっているという内容。

30分の番組なので、時間的な制約もあり、
伝えられる情報量が限られるのは分かります。
だけど見終わったあと、「ケガをしたら強くなるのか?」という疑問が残りました。

結論から言うと、ケガをしたから強くなるのではなく、
ケガをして、ケガと向きあうから強くなるというほうが、的を射ているように思
うのです。

中にはケガをして、「少し休めるからラッキー」と考える選手もいるかもしれま
せん。
そんな人は、いくらケガをしようとも、メンタルタフネスなど得られないでしょう。

真剣にスポーツをしている選手ならば、
ケガをするとその人にしか感じ取れないさまざまな思いがふつふつと湧き出てき
ます。
「いつになったら痛みがなくなるだろう」
「前と同じようにプレーできなくなるかもしれない」
「もう競技を続けられないのではないか」

そんなこんなの思いと向きあい、克服する経験が力となって、
ケガがメンタルタフネスに変換されるのだと思うのです。

錦織選手はいつも「さぁ、これからだ!」という局面で、ケガに見舞われてきま
した。
何度かは、きっとあきらめかけたこともあったでしょう。
だけど「もう1回やってやる!」という気持ちがまさったからこそ、
今の成長につながっているに違いありません。

ケガをしても、そこから何も学ばなければ、
ただケガをした事実があっただけでおしまい。
要は、ケガをしたときの精神的なもがき具合により、
いかに成長できるかが決まるということです。

受験生が浪人したからといって、勉強ができるようになるわけではありません。
その1年間、浪人としての経験を通じてもがくから、その人は成長します。
テニスでも、レッスンを受けたからといってすぐにうまくなるわけではない。
レッスンを通じてコーチのアドバイスを理解し、
繰り返して身につけるためのある程度のもがきがなければ、
その人の力として定着しないのです。

ケガをしたからといって、不合格になったからといって、うまく打てないからと
いって、
ふてくされては、困難としっかり向き合えないから
せっかくの成長するチャンスを棒に振ってしまいます。

そこで、もがいてみてはいかがでしょうか?
その経験は絶対無駄にはなりません。
そしてそうしてみた場合にはじめて、
錦織選手の強さの秘密も、垣間見えてくると思うのです。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広