Speaks vol.78  <<忘れることが大事>>

USオープンの準決勝、フェデラー対ジョコビッチの一戦は、
ジョコビッチの大逆転勝利でした。
フェデラーは、2セットアップから第3、4セットを落とし、
ファイナルは5-3アップで40-15のマッチポイントまでいってまくられた形。

ジョコビッチは、フェデラーのスライスサーブを、
飛びこみざまのリターンエースで切り返したのを皮切りに、
攻撃的なテニスでことごとくポイントを重ねて逆転に成功しました。

あのときのジョコビッチは、3-5ダウンであることを、
忘れていたのかもしれません。
少なくとも、「マッチポイントを握られてヤバイ!」という心配はなかった。
後先考えず「今」に集中。
これが、あのリターンエースにつながったのだし、
今シーズンばく進するジョコビッチの成長に寄与しているに違いありません。

大事なことは、「忘れること」。
私たちはつい、リードされていることや、さっき犯したミスのことを、
よく覚えていて、思い出してしまうことがよくあります。
プレー中にでさえ、「さっきネットに引っかけた高さのボールだ!」と思ったりする。
だけど、そんな過去の記憶をよぎらせてみたところで、
現状が良くなるわけではありません。

「勝負に大事なことは忘れること」といったのは、
元ヤクルトスワローズの名捕手、現野球解説者の古田敦也氏でした。
野球は連戦なので、敗戦を忘れることができないと、
もはや勝負にすらならないのだそうです。

忘れるというと、私たちはネガティブなイメージを持っています。
だけど忘れることができないと、ストレスに押しつぶされます。
逆に言えば、忘れることができる人は、ストレスが最小限。
つまり、生き方がうまい人であり、とらわれがないから、
テニスももちろん器用にこなせるに違いありません。

そうは言っても、「さっきのミスがどうしてもよぎる!」
「忘れたいのに忘れられない!」という人もいるでしょう。
そんな時こそ、「今に集中」です。
テニスでいえば、基本ですが、「ボールをよく見る」こと。
そうすることで、意識を「今」にとどめることができます
(結果、過去を忘れることができる)。

私たちは、学校では「覚える教育」ばかりを受けてきて、
「忘れる教育」は受けませんでした。
だけど生きていく上では、うまく忘れることは非常に重要なスキル。

うまくできないという人は、練習すればよいのです。
ミス、失敗を忘れる練習をするというのが、メンタルトレーニングの本質。
忘れることを、恐れないでください。
思い切って忘れれば、いいことが舞い込んできます!

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広