Speaks vol.128
  <<「コーディネーション能力」の応用>>

前回は、自分で自分の身体を思い通りに操る力、
「コーディネーション能力」について説明ました。

「自分の身体なんだから思い通りに操れて当然!」と考えるのは、
思い込みで、案外できない人が多いという話でした。

ところで身体を操るのは、
「筋肉」ではなく「脳」であるという視点を忘れてはなりません。

昔は、運動ばかりやっている人間は筋肉バカと揶揄される風潮もありましたが、
筋肉が勝手に動いているのではなく、脳が動かしています。
ゆえに、「コーディネーション能力」が高いとは、
「頭が良い」とも言い換えられるでしょう。

ということは、色んなことに気づけたり、発見できたり、
感じたり、理解できたりするのと同じ文脈の話なのです。

だから、「こんなことやって何になるの?」という疑問はナンセンス。
いろんな分野への応用が効くのが「コーディネーション能力」なのですから。

例えばスプリットステップの練習として、
ボールを投げ上げて地面に落ちた瞬間にジャンプの着地をするというドリルがあ
ります。

「そんなの簡単!」という人もいるかもしれませんが、意外にできません。
微妙にずれるのです。

だけど4~5回くらい繰り返すと、できるようになります。
これが反復によって脳と身体がリンクした成果。
頭が良くなった証拠なのです。

空間を把握するのも、目ではなくて脳。
目はレンズにすぎません。
ですから、ボールが地面に着地するタイミングを捉えられるとは、
脳の働きが優れているというわけなのです。

優れた脳を備えれば、いろんな応用が効きます。
陸上競技の元十種競技日本チャンピオンである武井壮氏によると、
種目がいっぱいなので、全部を完璧に練習するのはできないとのこと。

何で補われるのかというと、「コーディネーション能力」だというのです。
自分の身体を脳で思う通りに動かすことができれば、
あらゆる種目への応用がかないます。

フェデラーが「セイバー」できるのは、
セイバーの練習ばかりをするからではありません。
自分の身体を意思通りに動かすことができるから、
難易度の高いセイバーもできるのです。

このように「コーディネーション能力」が高まれば、
専門競技に秀でるばかりではなく、
いろんな応用が効くスポーツ万能人間になれます。

とはいえ前回お伝えしたように、
いきなり難易度が高い運動を行なう必要はありません。
簡単な動きを完璧にコピーできるようになるところから始めることが大切です。

テニスの練習はもちろん必要ですが、
それとともに、自分の身体を思い通りに動かせるようになるからこそ、
レベルの高いテニスもできるという点を踏まえておきましょう。

解説/スポーツラーニング・黒岩高徳
構成/テニスライター・吉田正広